福岡高等裁判所 昭和27年(ラ)15号 決定
本件抗告の要旨は、相手方は申立外渡辺恒次郎が抗告人に対し昭和二十五年十一月二十一日抗告人所有にかかる別紙目録<省略>記載の不動産につき抵当権を設定して貸付けた金十三万円の貸金債権を、同年十二月十日右渡辺から抵当権と共に譲受けたと称し、右基本債権にもとずき該抵当物件に対し、大分地方裁判所中津支部に抵当権実行による競売の申立をなし、同支部は右申立を許容し昭和二十六年十月十日競売開始決定をなし、次いで同年十二月十九日の競売期日において競売を実施した結果、相手方は最高価額金十三万円をもつて競落し、同支部は同月二十四日これが競落許可決定をなした。しかしながら抗告人は相手方の前主たる前記渡辺恒次郎から金十三万円を借受けたことなく、従つて又同人のため本件競売の目的物たる不動産に対し抵当権を設定したこともない。
右は抗告人の夫谷口富吉が昭和二十四年十二月末、当時右渡辺恒次郎を代表取締役とする光栄融資株式会社から金四万五千円を借受けたのを、渡辺において高率による利息を計上して元金十三万円とし、且あたかも自己がこれを貸付けたように書類を偽造した結果によるもので、該抵当権設定は無効であるから、これにもとずいてなされた本件競売開始決定並に競落許可決定は許されるべきでない。よつて抗告人は昭和二十六年十二月十九日右競売開始決定に対し異議の申立をなしたのに拘らず、同支部がこれを看過し競落許可決定をなしたのは不当であるから、該競売開始決定を取消し本件競落を許さない旨の裁判を求めるため、本件抗告に及んだというのである。
よつて本件記録についてみるに、相手方が昭和二十六年十月十日大分地方裁判所中津支部に、抗告人主張の抵当債権にもとずき、該抵当権の目的物たる本件不動産に対し、抵当権の実行による競売の申立をなし、同支部は即日これが競売開始決定をなし、次いで同年十二月十九日の競売期日において競売を実施した結果、相手方は最高価競売人として代金十三万円をもつて右不動産を競落し、同支部は、抗告人において同日右競売開始決定に対し異議の申立をなしたけれども、競売手続を進行し、同月二十四日これが競落許可決定をなしたこと、そして抗告人は同月三十日右競売開始決定及び競落許可決定に対し本件抗告を提起したところ、同支部は昭和二十七年一月十日右競売開始決定に対する異議申立却下の決定をなしたことを認めることができる。
そこで先ず
(一) 本件競売開始決定に対する抗告の適否について考えてみるに、本来ならば右抗告は、抗告人が先になした異議申立に対する原裁判所の決定があつた後でなければこれを許されず、不適法として却下を免れないものというべきであるが、本件抗告の提起後原裁判所において前記のとおりこれに対する決定がなされたので、現在においてはその対象が生じ適法に抗告が出来る状態になつたわけであるから、その瑕疵は治癒されたものと解するのを相当とするから本件抗告は右異議申立に対する決定に対しなされたものとして、これを取扱うべきものである。
よつて進んで右抗告が理由ありや否やについて検討するに、抗告人が本件競売開始決定に対する異議申立の理由とするところは、これを要約すれば、その所有にかかる本件不動産につき相手方の前主渡辺恒次郎から抵当権を設定し金員を借受けた事実がないというにあること記録に徴し明であるが、競売法による競売においては裁判所はその競売手続を進行するに必要な限度において競売の基本たる債権並にその担保物権の存否に関する実体上の調査をなすべきものであるそして競売開始決定は、その決定当時抵当権実行の要件を具備する場合は適法にこれをなし得べく、たとえ実体上の争がある場合でも、裁判所が競売申立人の権利につき相当の調査をなし、その権利があるものと認めたときは、債務者においてこれを争つても競売手続を進行し得るものと解すべきところ、本件についてみるに、記録編綴の競売申立書添附の資料に徴するときは、相手方が本件不動産につき抵当権実行の権利あることを認めることができ、抗告人の主張事実を疏明するに足る何等の資料も存しないので競売裁判所たる原裁判所が、これにもとずき本件競売開始決定をなした上競売手続を続行し、これに対する抗告人の異議申立を却下する旨の決定をなしたのは相当であつて、抗告人の右却下決定に対する本件抗告は理由がない。
次に
(二) 本件競落許可決定に対する抗告が理由があるか否かについて考えてみるに、抗告人の主張するところは前記競売開始決定に対する異議申立におけると同一趣旨であるが、競売法による競売においては、前説示のとおり競売裁判所は競売申立人の基本債権並に抵当権の存否につき実体上の争がある場合でも、これを争う債務者又は抵当不動産の所有者において別に訴を起して実体上の法律関係を確定しない限り、記録にあらわれた資料により競売進行の要件に欠けるところがないと認むべきときは、これを進行し得るものと解すべきところ、本件についてみるに原裁判所は記録編綴の資料に徴し右要件を具備するものと認めて競売を進行し、本件競落許可決定をなしたものであることを看取し得べく、そして前記資料によれば本件競売申立は競売進行の要件に欠くるところのないことが認められ、しかも本件競売の基本債権や抵当権の存否についての実体上の法律関係を確定したことは抗告人においてその主張も疏明もなさないのみならず、抗告人の主張事実を認めるに足る何等の疏明資料も存しないので、原決定は相当であつてこれに対する抗告人の抗告も亦理由がない。(なお抵当権は、その被担保債権の一部でも存する限り、債務者の履行遅滞があれば、抵当権者はその実行による競売の申立をなし、競売裁判所は競売手続を進行し得べきものであるから、その申立債権額に一部争があるような場合には他日配当手続において、主張するのは格別債務者において競落許可決定に対する抗告の事由としてそれを主張するのは失当である。)
その他原決定を違法として取消すべき事由は存しない。
よつて抗告人の本件抗告を棄却すべきものとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を準用して主文のとおり決定する。
(裁判官 野田三夫 川井立夫 天野清治)